ワイヤレスイヤホンの調子が悪くなった。
少し前の私なら、たぶんすぐに新しいものを探していたと思う。
性能を比較して、口コミを見て、「次はどれにしよう」と考えていたかもしれない。
でも今回は違った。
家にあった有線イヤホンを使ってみた。
それだけのことだった。
けれど、使い始めてすぐに気づいた。
「あ、充電しなくていいんだ」
この小さな解放感が、思っていた以上に大きかった。
充電残量を気にしない。
接続が不安定になることもない。
ケースを持ち歩く必要もない。
ただ差し込めば、音が聞こえる。
それだけなのに、生活の中の小さなノイズが減った気がした。
そして同時に、パリでの生活を思い出した。
向こうでは、「あるものを使う」という感覚が自然だった。
特別なものを増やすより、今あるものを工夫して使う。
完璧に整えすぎない。
少し不便でも、それを含めて生活する。
日本に戻ってから、私はいつの間にか「もっと便利に」「もっと効率よく」に引っ張られていたのかもしれない。
でも、本当に心が落ち着くのは、
案外こういう小さなことなのだと思う。
新しく買わなかったこと。
今あるものを使えたこと。
余計な充電がひとつ減ったこと。
たったそれだけ。
だけど私は、その小さな出来事の中に、思っていた以上の豊かさを感じている。